東大院生デイビッドの宇宙開発ブログ

宇宙工学エンジニアを夢見る若造が好きなことを好きなだけ発信.

"「考える力」の鍛え方"を読んで

先日、考える力の鍛え方という本を読みました。東大の理論物理学の先生が書かれたものです。これからの自分にとっても良いヒントになりました。皆さんにもおすすめなのでご紹介します。

 

東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方

東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方

 

 

要約してみると、

 

そもそも、「優秀さ」を測るには3段階ある。それが「マニュアル力」、「考える力」、「創造力」。

マニュアル力はいわゆるお勉強の能力で、考える力は問題発見力、創造力は、誰も気づいていないことを独自の方法で解決する力のこと。

 

これは順に、大学受験、大学、大学院で求められる能力。それぞれ下位のものがなければ上位のものは成り立たないからぜんぶ大切だが、当然上位のものほど、身に付けるのが難しい。

 

 

創造的に考えるにはどうすれば良いか。重要なのは3つ。

本質的な問題を発見する力、

要素に分けて解決する力、

諦めずに粘り強く取り組む力。


本質的な問題を見つけるためには、

何が既に分かっているのかを確認するために、徹底的な情報収集と要点の理解・記録が大切で、かつ、理解したことは思考の外に捨てて、洗練していく作業が必要。


要素に分けて解決するというのは、複雑な問題を解決可能な要素に分解して、個々をひとつずつ検証していくということ。


最後の諦めないて話。

ここで大切なのは、自分が本当に取り組みたいと思えることを選ぶこと、そうすることで、大量のトライアンドエラーにも屈しないモチベーションを保てる。

また、原点に立ち返って考える勇気をもつ。精神的に疲れたときはしっかり休むってこと、そもそも心に余裕を持つこと。好奇心、疑問をもちつづけて、広い視野で物事を多角的に見ること。

 

そして、憧れ、ビジョンをもつこと。

 

そうそう、この本読んでいて思い出したのがなぜか、「ゼルダの伝説」というゲームでした。そもそも、ゼルダの伝説というのはニンテンドーが出している謎解きRPGゲームのシリーズです。勇者リンクになりきって、ゲーム内に随所に散りばめられた「課題」を試行錯誤のトライアンドエラーを繰り返して、解決策を導きます。こういった課題を解くのは、大学受験の数学の問題を解くのに非常に似ていると思っていて、ある程度手持ちで使える道具は決まっている中で、それらを組み合わせて、どう答えに辿りつくかを考える。難しい問題では、これまでの解決策に囚われない発想が必要ですし、行き詰まってどうしようもなくなったら原点に立ち返らなくてはならないといったことも必要で、総じて、通ずるものがありますし、数学で本質的に教育したいことというのは、ゼルダの伝説で学習できると思います。そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、あながち間違っていないと私は思います。

特にスイッチで出ているブレスオブザワイルドでは、オープンワールド形式になっているので、始め、世界全体の詳細な地図は全く分かっていません。とりあえず合っているであろう方角に向かってただただ進んで、目的地にたどりつく、というのが基本的な動きです。いくらでも寄り道ができる自由度があるので、創造的なものの進め方、すなわち脇道に逸れることをよしとして好奇心の赴くままに進んでいく、という方法に通ずるものがあると思いました。

要するに、本書で述べられている、「創造的な考え方」のベースとなる力を身につけるのに非常に良いゲームだということです。面白いので皆さんも是非やってみてください。笑

 

少し、話が逸れましたが、

 

これまでは、欧米に追いつくために、真似して、マニュアル的な方法で成長できてた日本だけれども、トップ層になってきた今は、創造的に考えて新しいものをどんどん生み出す時代に入ってるから、みんなその力を磨く必要がある。生き残るのは強い者じゃなくて環境に適応した者。というのがザックリとした著者の主張でした。

 

考える力が大事だ!というのはよく聞くと思いますが、じゃあそれをどう鍛えるのかって話はなかなかないですよね。その方法について述べている珍しい本です。

 

以前、ベクトルなくなる、三角関数いらないの話でも、少し言いましたが、

これからは破壊の時代で、新しいものを作っていかなければならない。そういった状況で次の世代に必要なのは、ある職業を専門的に行う人材ではなくて、様々な変化に対応し、環境に適応する能力を持った人だと思います。

 

その点でも、今回紹介している本の著者が述べている「創造的に考える力」こそが鍵になっていると思います。

 

マニュアル力ばかり鍛える教育が横行してきたこともあり、日本でふつうに教育を受けてきた人にとっては、なかなか身につけられない代物です。

 

したがって、「意識的に」鍛えることがとても重要なんじゃないでしょうか。

 

僕も早速本書の内容を実践して、自由な発想で生きていく力を身に付けたいと思っています。

 

興味のある方は是非読んでみてください。

 

ベクトル消える問題。三角関数いらん問題を語る

どうも。デイビッドです。

実は、某予備校で4年間バイトしていたことがあって、教育への関心高めマンなんですが、

ベクトルが数Bから数Cに移行する

というのを聞きつけたので、だらだら語ります。

 

高校数学のベクトルが数B

から消える。数Cに移るらしく、文系志望の学生は、ベクトルの有用さを知らぬまま大学へ。このことで、図形の問題を解く際に、ベクトルで解く選択肢が減るので、窮屈そう。

理系志望の学生は、終盤までベクトルを学習しないまま物理を履修しなければならない……ということで、絶望的すぎる采配。

 

機械工学などの物理を扱う分野に進みたい学生のみなさんには特にアドバイスしておきたいのですが、

 

 

 

ベクトル、マジで要る。

 

 

 

 

ベクトルの理解が浅いのは物理学を学ぶうえで本当に致命的です。

更に、大学初等数学である線形代数は、文系であっても、履修するひとが多い必須科目ですが、ベクトルの理解がないと、これも苦しいです。

 

まぁ正直、「行列」もマジで、要るという部類だったにもかかわらず現在は省かれています(僕の頃はまだありました)。

みんななんだかんだやってるのかもしれませんが、学習が遅くなる弊害は必ずあるはず……

複素平面は、行列がぬけた代わりに入ってきています。複素平面も工学上重要な概念ですが、

ベクトルはそういう次元ではないです。もっともっと重要で頻繁に使いますし、エレガントな概念なので、指導過程変更後の高校生のみなさん、特に理工系志望の方は、余力があるうちになるべく早くベクトルを自習してしっかりと身につけておくことを本当にオススメします。

 

確かによく考えると、高校の物理って無理やりベクトルを排除してるんですよね。なので、これまで通り物理を学校で教えていればいいんですが、これは本当に非効率的で、本質を見えなくしてしまうだけです。

僕が高校生を教えるときは必ずベクトルを加味して教えていました。特にこれからバリバリベクトルを使っていくような分野に飛び込む予定の学生には。

 

 大学の先生の負担も増すばかり。 

 

 

 

ベクトルは消したらあかん。

 

 

 

また、今回の話とは直接関係しませんが、つい最近話題の、某H本氏の、三角関数いらんだろ問題。

 

彼はきっと、

より日本を成長させたい、

そういう思いで、ああいう過激ともとれる発言をしたんだと思います。

 

たしかに、適性のあることだけやって、その道のプロを大量に排出するのは「効率の良い」ことかもしれません。

 

 

が,言いたいのは,人の可能性を奪うなってこと。

 

・何に適性があるかなんてすぐに分かる訳がない

僕は,そもそも教育って広く浅くいろんな可能性を押し拡げるためにあると認識してます。その根本を変えたいってことなんでしょうが,適性を早い段階で見極めてしまうとかいう話。一生かけてやっと適性あるて分かることもあるやん。どう線引きするつもりなん。あるいは、やりたいこと、情熱を注ぎたいと思えることが見つかった時に、仮にその段階で不得手なことでも、情熱さえあればいくらでも適性を有するレベルまで持っていけるでしょう。そういう「マイナスがプラスになっていく可能性」を始めから切るのは馬鹿としか言えないよ,馬鹿。

 

・効率が全てじゃない

学問・創作活動ってそもそも効率が悪いわけですよ。研究にしろ、音楽とかアーティスティックな活動にしろ、大勢の人に評価されるものを生み出すのってそもそもの性質として効率悪いもの。その効率の悪い部分にこそ、イノベーションがあるわけ。で、もちろんそのイノベーションの起こる割合はほんまに少ないけれども、そういうものには爆発力がある。1が1000になる。自由な学習を妨げるような教育は、自由な発想も妨げるし、そういうことで生まれるイノベーション爆発の可能性も切るってこと。

 

極端に各人の可能性が狭まるような教育システムじゃ、すぐに限界がくるってなぜ気づかないのかしら。それこそ,人口減少の情勢なんやから,生まれてくる少数の子供達には,いろんな潜在能力を開花させて,様々な役回りとれるようにしていくべきでは??

そして,ここでいう「可能性」は「夢」と同じだと思ってます.

真意は分かりかねますが、要するに,私が言いたいことは,

人の夢を奪うな!!

ってこと。

 

 

 

宇宙機システムまとめ.【第1章:Introduction】

こんにちは.

宇宙機についてまとめたくなったのでまとめます.

今回はイントロです.

 

盛り上がる宇宙開発.ついこの間,JAXAが革新的技術実証プロジェクトの第一弾を打ち上げて,見事,ユニークな技術をもった衛星たちの投入に成功しています.20年代にも様々な計画が予定されていて,今後の発展がとっても楽しみです.

そんなこんなで,ふと宇宙機についてまとめとこってなんか思いました.はい.

ここでは,現状設計・製造・利用されることの多い「衛星」や「探査機」に絞り,これらを総称して宇宙機と呼ぶこととします.

 

基本的に,宇宙機のシステム構成は以下のようになっています.

 

バス系:

  • 電源系
  • 姿勢・軌道制御系
  • 構造系
  • 熱制御系
  • データ処理系
  • 通信系
  • 推進系

ミッション系:

  • ミッション内容による

 

より広い「システム」として捉えるのであれば,ここに,

打ち上げ(ロケット)系

地上通信局系

なども含まれます.

 

宇宙工学というのは,ざっくりいえば宇宙機を飛ばすための工学ですから,宇宙機のシステム構成がどのようになっているか,どういった要素があるのかを見ていくと,そのまま宇宙工学につながる各分野が見えてきます.

 

電源系は,電気電子系や電気化学.

姿勢・軌道制御系は,力学(姿勢・剛体の力学,天体力学,軌道工学),制御工学.

構造系は,材料・構造力学・振動工学.

熱制御系は,熱力学・伝熱工学.

データ処理系は,電気電子,情報工学

通信系は,電気電子工学.

推進系は,推進工学.

などなどが関わってきます.

 

上記がまさに, 宇宙工学が総合工学と言われるゆえんですね.

ちなみに,航空宇宙工学科では,基本的に電気系の授業は少なく,サブシステムでいえば,姿勢・軌道制御系,構造系,熱制御系,推進系の部分を重点的に学ぶことになると思います.

ところで,よく聞く流体力学ないやん!と思われるかもしれませんが,基本的に,流体力学は,航空機向けに学ぶので,宇宙機に関しては必須級ではありません.ただし,推進工学は流体力学の知識が必要ですし,はやぶさであったような再突入カプセルやスペースシャトルのような宇宙往還機の設計などは,高速流体力学的な検証が必須です.

最近では,大気を持つ天体(たとえば,火星)などに対して,軌道投入にかかる燃料を節約のため,大気抵抗による減速を行う研究なども行われていたり,(エアロブレーキ,エアロキャプチャでググるとよいです.)火星で,ドローンや飛行機を飛ばすことを考えているグループもNASAJAXAに存在します.こういう研究には流体力学ですね.

 

宇宙工学に関わっていて,最近特に思うのは,「電磁波」の理解がとても重要だということです.宇宙環境について考えても,太陽からの電磁波だったり,放射線があります.加えて,観測機器として頻繁に利用されるリモートセンシング機器は,赤外線やX線などなどを大いに利用しているわけです.当然ながら通信も電磁波で行いますから,電磁波なくして宇宙開発なしって感じなわけです.なので,また今度,宇宙探査における電磁波についてのまとめのようなものも書けたらなあと思っております.

 

 

スペースデブリ問題を語る

こんにちは。デイビッドです。

 

川崎重工スペースデブリ除去衛星事業に乗り出したそう。

 

なかなかお金にならない話なので苦しそうですが、僕個人としては、宇宙事業を行う日本企業が増えるのは嬉しいです。

 

スペースデブリというのは、地球の周りを取り巻いている昔の衛星やロケットの残骸のことです。通常、これらの残骸は、地球に近い軌道にいる場合は、大気抵抗の影響が大きくなって、放っておいても勝手に燃え尽きますが、大気抵抗の影響が小さい範囲の軌道では、延々と地球の周りを回ってしまいます。

 

さてこのデブリ何が問題なんでしょうか。

少し前に、国際宇宙ステーション(ISS)に穴が空いてしまい、滞在中の宇宙飛行士が指で塞いでなんとか空気の漏れを防いだが、大変だったというニュースがありました。これはまさに、スペースデブリ宇宙機に衝突し、損害を与えたいい例です。

大量の小さくて細かい破片が地球の周りを約8km/sというものすごいスピードで回り続けているわけです。

 

このスペースデブリによって、衛星に損傷や破壊の危険が及びます。

 

益々発展するであろう宇宙開発、衛星打ち上げの増加などを鑑みると、スペースデブリの数が今よりも膨れ上がることは容易に想像できます。対策を講じなければ、宇宙利用の未来が閉ざされるわけです。

 

そのため、近年、このスペースデブリを除去する(基本的には、大気圏に突入させることで、焼却する。)技術の研究が世界中で盛んです。

 

日本のベンチャー、アストロスケールが世界で初めて民間としてこの問題に取り組んでいます。

 

磁力を利用した方法や粘着させて回収する方法など様々なものが考えられていますが、

根本的な解決にまではなかなか至っていないのが現状です。

 

スペースデブリ問題の取り組みには大きく二つあると思っています。

一つ目は、今地球周回軌道をまわるデブリたちの除去。

二つ目は、これから打ち上がる宇宙機デブリとならないための対策。

 

もちろん一つ目は重要です。基本的には、しばらくこの観点で解決策が打ち出されると思います。

しかし、将来的に、宇宙開発、宇宙ビジネスの活発化が進む中で、果たしてゴミになったものを処理しているだけでよいのでしょうか。

その点で、二つ目を考えるのはとても重要なことかと思います。

 

実は、技術を語るのと同時に、あるいはそれ以前に、「ルール」を決めることの方が重要だったりするんですよね。未知の領域が多い宇宙は特に!

 

好きなことに夢中になるのは最高ですが、一つのことに囚われすぎず、柔軟な発想を持って、全体を俯瞰することも意識していたいですね。

 

スペースデブリ問題、皆さんもアイデア考えてみてください!

 

 

追記で,最近見つけたおすすめの教科書紹介してますので,ぜひ! 

aseng8.hatenablog.com

 

宇宙探査ミッション立案スクールに参加しました

お久しぶりです、デイビッドです。

 

ここ1週間、「宇宙探査ミッション立案スクール」なるものに参加していました。

6日間みっちりのスケジュールで、宇宙探査の歴史、月惑星科学、システム工学などの講義を受けながら、5、6人ほどのグループで実際に探査ミッションを立案していくというものです。

 

初めて会ったバックグラウンドも全然違うような人たちと、議論を深めながら次世代のミッションを考えるという経験はなかなかできるものではないので、とっても貴重な経験になりました。

 

グループの人たちとは、どこか波長が合って終始和気あいあいとしていたので、ストレスなく(半徹数回しましたが)やり切ることができました。

 

一口に宇宙をやるといっても、僕のように、どうすれば、宇宙を探査できるのか?どういったシステムで目的を達成するのかといった工学側の立場で物事を考える人と、

 

地球はどのようにして生まれたのだろう?ほかの天体に地球に存在するような生命はいるのだろうか?天体の構成成分、内部構造はどうして違うのだろう?といったことなど、理学的に物事を考える人がいたりします。

 

普段、科学的な知見の獲得に意義を感じて頑張っている人と話す機会はそんなにありませんし、ましてや議論することもなかったので、非常に刺激的でした。

 

ぶっちゃけ宇宙探査に面白さは感じても、どこの天体の何が面白いとか思わなかったんですが、月惑星の地質学や大気に関する話、太陽系形成やタイダルロッキングの話など沢山興味深い内容を聞くことができました。

 

理学の人が魅力を感じる理由も伝わってきて宇宙探査の意義というものを改めて考えるきっかけになりました。

 

個性の異なるメンバーが集まって作るようなどんな種類のプロジェクトにもこの経験は役に立ちそう。

 

ケータイを見る時間もこの1週間合わせて1時間ないのでは?というぐらい没頭していました。だから疲れたーー

 

探査ミッション立案の入りの部分を経験できたことで、自分がこれから宇宙探査にどう関わっていくか、どう関わっていきたいか、一つヒントを得られたかな。

 

この新たな視点を研究室に持ち帰って、自分がおもろいと思えること突き詰めていきたいとおもいまっす!!

 

今回ミッションを考えていく中で、大切だなと感じたこと、こうあるべきだなと感じたことを、奇しくも探査対象に選んだ天体を発見した人が上手く言い表していました。

 

Measure what is measurable, and make measurable what is not so.

 

 

 

 

力学の真髄!?最近買ったおすすめの本

こんにちは!

今日は,最近読んだものでおすすめできるな!と思った本があるのでご紹介します.

 

 それがこいつです!

力学 (基幹講座物理学)

力学 (基幹講座物理学)

 

 

おいおい力学の教科書かよ〜

という声が聞こえてきそうですね笑

 

機械系エンジニアにとって力学は,最も重要で基本的な解析ツールだと言えます.

力学と数学がともに発展してきたことはよく耳にすると思います.

数学は,究極的に厳密さを追求し一般化することを目指しますが,そのことが往往にして学ぶ側の理解を難くしているのは火を見るより明らかです.

 

しかし,工学の立場にたったとき,誤解を恐れずに言えば,

数学の難解な概念や詳細な証明にフォーカスするよりも,

その概念がどのように応用できるのか,どんな現実的な問題・課題を解決できるのかということを知ることは非常に重要です.

 

「使えればいい」精神を支持している訳ではなく,導入の面において,力学と数学の関連を直接感じながら学べることが必要なのではないかという話です.

また,応用先,適用方法を知ってから,再び抽象化した概念に立ち返り眺めることで,数学的概念の理解をより簡単にするのではないでしょうか.

 

このような観点から力学を学ぶ上で,推薦できるなと感じたのが,今回の本になります.

本書は大学1年生の教科書を想定していますが,テイラー展開常微分方程式の解法など数学の授業で学ぶまで理解を進められないような工学上重要な道具についてもきちんと必要になったその場で説明がなされているので,別の数学の教科書を開く必要もありません.当然詳しく学びたければ,学べばよいですが,力学を素早く俯瞰するという点においては十分な程度の説明がなされています.

古典力学について述べながらも最新の話題が随所に盛り込まれていることや,力学に貢献した偉人がどのように考えて法則を見出したかなども取り上げていることが,「飽き」という障壁を完全に取っ払ってくれます.大学高学年向けの発展的内容も含まれており,初学者はもちろん学び直しを考えている大学高学年の学生,社会人,意欲のある高校生の方にもおすすめです.

何より,微小重力環境,惑星の運動,ダークマタースイングバイ,三体問題,地球の歳差運動等の宇宙工学・宇宙物理学に関連するコラムを扱っているページが他書よりも多く見受けられる点は,私がこの本を購入するに至った重要なポイントです.

宇宙に興味があって,物理学をこれから学ぼうとされている方や学び直してみようと考えている方の最初の一冊におすすめです.

 

ぜひ,書店で手にとってみてください〜!

 

 

 

 

 

 

【高校生必見】航空宇宙工学科の実際!!【経験談・内部事情】

どうもこんにちは!デイビッドです.

今回は少し,いつもと毛色が変わります.というのも!

 

航空宇宙に興味を持っている高校生(や中学生)のために,航空宇宙工学科の実際をお伝えします!!

 

航空宇宙工学科って具体的には何やるの?

実際どんな感じ?面白いの?雰囲気は?おすすめは?

などなど,様々な疑問があると思います.

航空宇宙工学を学びたい高校生だった私が,学部で航空宇宙工学科に進み,その航空宇宙工学科から院で東大の航空宇宙工学科に進学した実体験も交えながら,思いつくままにお話しします. 

 

それでは,レッツゴー!

 

 

 

そもそもの注意点

そもそも航空宇宙工学科というのは航空学科が源流ですから,飛行機に関連する話はどこの大学でも学ぶと思います.

今でこそ,JAXAの「はやぶさ」や今話題の「はやぶさ2」,民間でも宇宙ベンチャーの湧出など徐々に盛り上がりを見せていますが,日本では宇宙工学が盛んとは言えないので,航空宇宙工学科といえども,宇宙関連の話題をきちんと学べるところは少ないです.

もしあなたが宇宙工学を日本で学んで,宇宙に関わる仕事をしたいのであれば,宇宙開発実績のある研究室に狙いをつけるのがおすすめかなと思います.研究室のオススメは,次回以降していければと思います!

 

 

どんな学生がくる?

完全に主観ですが,航空宇宙工学科に来る学生の多くは飛行機か宇宙機(衛星かロケット)に興味があると言い切ってしまっても大丈夫でしょう.実際は,やりたいことは特にないが成績優秀なので,人気で倍率の高い航空宇宙工学科にきてみた,みたいな人が一定数いるのが現実です.意外とオタク度(航空宇宙への興味関心度)に差がありますね.

中には管制官になりたい!やパイロットになりたい!宇宙飛行士になりたい!という思いで入った人もいるかもしれません.ですが,工学科ですので,良くも悪くもエンジニアになりたい方向けです.当然ものづくりの立場から学ぶので,上記のような職に憧れる人が,「あれ少し違うかも」と感じることは大いにあり得ます.私は幼い頃からエンジニアになりたかったので,迷わず選びました.そんな私でも,学部の頃は,「こんなことがやりたかったのかな?」と思い悩んだ時期があります.その辺はまた機会があれば話そうかと思います.

 

ちなみに宇宙飛行士になりたい場合は必ずしも航空宇宙工学科を出る必要はありません.

「自然科学系の大学院の修士の学位を持っていること」が条件だったと思います.もちろん,航空宇宙工学科から宇宙飛行士になっている方は多いです!

宇宙物理学と宇宙工学の違い

また,「宇宙」という言葉に惹かれて,選ぶ人も多いですが,

「宇宙物理学」がしたいのか「宇宙工学」がしたいのかで,ものすごく違うので注意してください.宇宙物理学というのは,星そのものや,宇宙空間の物質や放射線宇宙論を研究するもので,こういった分野は理学部の物理学科になります.ガチの天才が集まるイメージですね.対して,宇宙工学というのは,宇宙を開発するための工学全般を指しています.理学分野が,例えば, ある星の岩石の成分が知りたい,と工学分野に求め, 工学分野がその情報を獲得するためのマシン=探査機を開発する,というふうな流れでプロジェクトが進められていたりします.もちろん,単に工学技術の実証のために探査機や衛星を作ることもあります.

 

学ぶ内容について

数学

さて,学ぶ内容についてです.工学科ですので,微分積分,行列,微分方程式等が付いて回ります.航空宇宙工学科の学生は,高校の数学も得意だった人が大半だと思いますが,大学に入ってから,休憩をしすぎてしまって,大学の数学が身についていかない人は多いです.(どこの学部でもあることですが)

高校数学全般を得意にしておくのが理想で,特に数Ⅲをしっかり理解しておくことは大学に入ってからもとても役に立ちます(これは実体験です.大学の数学,特に1年生で学ぶような微積分学を苦労なく理解できます.その後,専門分野で行われる数学的な展開にも楽についていけます.高校で頑張ってよかったなと大学時代痛感しました.)

 

専門科目

機械学科で学ぶような学問の,特に,航空機や宇宙機への応用について学ぶのが航空宇宙工学科です.つまり,高校の物理学で学ぶような力学を基礎として,大学の,少し数学感の増した力学を身につけた上で,流体力学,固体力学(材料力学),熱力学,制御工学などを中心に学びます.この辺りは理論のお勉強で,加えて,工学分野ではプログラミング能力は必須で,プログラミングの授業もあります.

大学によっては,電子回路などの電気系の授業もありますが,私の学部時代の大学ではありませんでした.なお,東大ではあるようです.(注: 自学科になくとも,電気電子系の学科には当然ありますので,モチベーションと意識の高ささえあれば,制度的に授業を受けることは可能です.)

 

もう少し詳しくみていくと,流体力学というのは,水や空気などが物理的に,巨視的に(分子よりは十分大きいサイズ)どのように振る舞うか学ぶものです.歴史は古いですが,航空学科の立場からは,飛行機の,主に翼の周りの気体の流れの挙動から働く圧力すなわち揚力や抗力などを計算したいというモチベーションがあります.それらが計算できれば,例えばどのような形の翼にすれば上手く飛行できるのかなどが分かるからです.数学的に綺麗に定式化されている話が多いのが一つ特徴です.また,航空学科が他の機械系学科と違うのは,「非常に速い流れ」について扱うことです.「高速流体力学」や「圧縮性流体力学」と呼ばれます.

固体力学は,流体力学と対になっているようなイメージを私は勝手に持っています.大雑把にいえば,固体でないものは流体で,流体というのはゆっくり変化させれば力なしで簡単に形が変わるもののこと.固体はその逆.実際その二つの違いは,その断面に平行な方向の力(せん断応力)が働くかどうかで決められている模様.つまるところ,せん断応力があるのが固体,ないのが流体.力学的に両者の性質は異なるので,分野が分かれているということですね.(根底にある"力学"の考え方=ニュートンの力学法則を使用するのはどれも同じです.)

で,前置きが長くなりましたが,固体力学とは,固体にかかる内力や変形についてのお話しです.これは土木建築の分野から生じたものです.いつの時代も人間は「住むためのより良い構造物を作りたい」わけですね.

航空宇宙工学科では,作る対象である飛行機やロケット,衛星の構造をより良いものにしたいというモチベーションがあります.

制御工学は,近年の機械の高度化および電化,デジタル化の流れから急速に発展してきたものです.

衛星であれば,姿勢が適切でなければ,太陽光による発電も上手くできませんし,何かをセンサで観測することもできません.そういう意味で,姿勢を所望の向きに維持したり,精度よく変更したりということが常に求められます.また,衛星や探査機は,地球や太陽など星の重力を受けて運動しています.このように大きな目でみたとき,衛星や探査機を質点とみなせる場合の運動を軌道運動と呼んでいて,軌道=位置も上手く操作したいという要求があります.衛星のように直接リアルタイムで人間が操作できないような対象の場合は特に問題で,衛星自身に備えられた制御の論理・アルゴリズムによってこれらの操作を達成しています.いわば自動化の技術で,自動化のための論理・アルゴリズムを学ぶものです.

そして,高校の物理でもそのままの名前で学ぶことが多いのでご存知の方も多い熱力学.飛行機のエンジンの熱サイクル・熱効率の改善に必要な知識ですし,圧縮性流体は熱力学的要素を考慮する必要が出てくるので,高速の流体力学には熱力学の話も大いに含まれます.また,宇宙機では,衛星内部の機器のために温度を適切に保つ必要があって,熱の問題が生じる(宇宙空間は典型的には4K=-269℃とかなり低温.太陽が当たれば急激に温度が上昇するなど極限環境なわけです)ので,それらについて研究の必要が出てくるわけです.

メインとしては以上のようなことを学びます.

 

大学の制度のお話

また,近年は,入ってから専門分野を選択していくコース分け制度をとっている大学も多いのです.航空宇宙工学科は一般的には人気が高いので,コース分けに成績が用いられる場合は,入学してからの1,2年はしっかり勉強する必要があります.

その分,大学受験の段階では,入り口が広くなっているとも捉えられますから,自由な時間が増える大学に入ってからしっかり取り組むというのも一つの手です!

 

最後に

航空宇宙工学科に入りたいという人向けに書いていますが,個人的には,大学に入ってからいくらでもやりたいことは変わると思っていますし,当然変わってもいいと思います.

「常に自分が何をやるのが楽しいのか,どうなりたいのか考える」のが大切だと思います.もちろん結論はすぐには出ませんしそれは苦しい時間です.それでも考え続けること.それから,今やらなければいけないこと,やり遂げたことは必ずどこかで役に立つということ.というよりむしろ苦労してやり遂げたんだから役立ててやる!と思うこと.そういう心持ちでいることが自分が納得できる道を進む上で大切なんじゃないかなあと思います.(偉そうに書きましたが,全部自分への忠告でもあります笑)

なんであれ,みなさんを応援しています.頑張ってください!!